カザンラクのバラ祭りに観光DXはあるか? 観光客目線で見た現地の実情

さて、バルカン半島放浪記の第4回はブルガリアのカザンラク訪問記です。
これまでギリシアの古都でフードデリバリーや電子決済の実情を検証してみたり、セルビアのベオグラードで東欧のIT企業の躍進ぶりを目の当たりにしてきましたが、次はカザンラクという人口5万人足らずの都市に目を向けていきましょう。

以前、愛媛県松山市を訪れたことがあります。
道後温泉本館は、マルチ言語対応、室内に張り出しをしないようにするため、床面にデジタル投影を行うように作られていました。美観を維持し、あらゆる国の言語に対応し、動画で分かりやすく表示させるという、DX化のお手本のような作り込みに感心させられたものです。
観光と工業の町、カザンラクはこうしたDX化を取り入れているか、どのような取り組みがあるのかを見ていきたいと思います。

カザンラクはブルガリアのちょうどど真ん中に位置する中規模都市です。工業都市として栄えていて、同国の軍需メーカーの本社があって地域経済を支えているほか、世界最大のローズオイル生産地として大小さまざまな工場が林立しています。

新石器時代にはこの辺に人が住みだしており、先住民族であるトラキア人もこの辺に住んでいたそうです。カザンラク付近に墳墓の遺跡が残されており、2004年〜2007年にかけて、日本の地域振興協力として「カザンラク地域振興計画プロジェクト」を実施しました。トラキア墳墓の発掘・修復・展示、観光情報センターの整備、バラ公園などの整備、主要道路の整備、観光イベントに伴う宿泊施設や土産物などの周辺資源の支援……これで2004年より前と比べると年間観光客数が2倍以上に拡大しているそうです。

カザンラクのバラ祭。バラの女王を決めるコンテスト
2026年のバラの女王、発表

ちょうど訪れた6月上旬は、バラ祭のまっただ中でした。
1年に1度開催されるバラ祭は、100年以上続くこの地域のお祭りです。
イスラム世界(特にペルシャ地域)ではバラが神聖視されていて、バラは愛の象徴、神の慈愛の象徴とも言える存在でした。モスクや霊廟のお清めに、造園のテーマに、料理の香り付けに、伝統薬の材料に、もちろん美容アイテムにも、本当に幅広く使われていました。オスマントルコ帝国でも同様に愛好され、領域内で栽培に適した場所を探した結果、朝採集するときに湿潤な空気をもつカザンラクが産地として選ばれ、盛んに栽培されるようになったらしいです。

バラ祭は、バラの女王を選ぶコンテストを中心に、バラ摘みの儀式、パレード、産業展示など2週間ほどを掛けて様々な出し物が市内各地で実施されます。
さすがにべったり見ているわけにも行かなくて、コンテストとその翌日くらいまで見てきたのですが、観光客でごった返していて、かなりの盛況ぶりでした。

結論から先に言うと、残念ながら、まだまだDX化らしいものは見えていませんでした。
電子決済の進み具合は、これまで見てきた通りでカザンラクの屋台でも多くが電子化されている様子でしたが、案内表示が電子化されているとか、観光客向けの情報が整っているとか、少なくとも外から見える範囲では日本の観光地と大差はない印象でした。

お祭り会場に屋台が立ち並ぶ。どこもたいてい電子決済に対応している様子だった。
お祭り会場に屋台が立ち並ぶ。どこもたいてい電子決済に対応している様子だった。

女王が決まった翌朝、バラ摘みの儀式を見に行こうと車を走らせたのですが、Webサイトにも具体的な場所が出ておらず、村名程度の情報しか出ていません。よほど近くに行って、初めてブルガリア語の手書き表示を見つけてたどり着いたのですが、この辺はDX化とはほど遠い現状でした。

バラ摘みの儀式。お婆さんたちが歌う。
バラの女王に負けず劣らずのお姉さんたちも儀式に参加
当代のバラの女王。
当代のバラの女王
バラの博物館で精油の手順を学ぶ。
バラの博物館で精油の手順を学ぶ。数百トンのバラの花で、ほんの僅かの精油しか採取できない。とんでもない価格になるが、ヨーロッパの高級ブランドの化粧品の材料となる。

また、ローズオイルの博物館にも行きましたが、本当に地方の小さな博物館です。ブルガリア語と英語のみ、展示パネルの張り出しでした。

地元の博物館にも足を運びました。
トラキア人の遺物が多く展示されていました。文字を持たなかったので今を以ても不明な点の多い騎馬民族ですが、農耕や牧畜を営んで、さらに黄金文化までを持っていたと伝えられ、卓越した鋳造技術を持っていました。写真は推定西暦1〜3世紀頃の作品です(日本はまだ弥生時代くらいです)。
こちらも展示は素晴らしいが、特にDX化されていませんでした。

トラキア人の青銅細工
黄金の仮面
世界史の教科書に出てたやつだ
世界史の資料集に出てたやつだ!

ただし、DX化は目に見えるものだけではありません。
内部的に情報を管理していたり、人流を調査したり、外部の人からは見えない部分で取り組みがあるのかも知れません。ただ、僕は一般の旅行者として見に来ているため、あくまで旅行者の目線からしか評価することができません。

内部的にDX化に取り組んでいる可能性はあるにせよ、外国人観光客には親切じゃないというのは事実で、どこでどんなイベントをやっているのか、いつやっているのか、ちゃんと把握できなかったのは残念です。特にブルガリア語は全然分からないよ、という人々にとってはネット検索で調べようもないため、団体ツアー以外は無理なんじゃないかな……と。

例えば愛媛松山の道後温泉のように、施設の美観を保ったまま、各国の言語で案内を出したり、言葉が通じなくても分かるようなグラフィックスを活用するなど、まだまだ観光客向けDX化の余地はあるように思います。最低限、スマホで検索したとき簡単に出てくるようにしてくれるだけでも、ずいぶん違う気がするんですよね。

翻って、日本も同じだと思います。
どこに行けばイベントやっているの? いつ行けば大丈夫? 予約は必要なの? どうやって行けば良いの?
日本語もブルガリア語も、分かる人は少数派の言語です。英語化は相当進んでいるものの、読んでみると結構微妙な英語だったりするし、イベント情報のような期間の短い情報は英語化されていなかったりするパターンもあります。
この「どうすればいいの?」だけでも解決することができれば、観光だけでなく、日本のサービスを世界で売ることへの道も拓けてくるだろうな、、というのが実感を伴って理解できたのは大きな収穫だったと思います。

現状のダウンロードGoGo!は日本人向けなので多言語対応する方向には向かないけど、日本発のサービスを海外に売り込むという逆ルートの機会があったら、ここでの学びを活かした設計をしていくのは大きな意味があるんじゃないかな。

日本人女性
カザンラクが日本との友情を記念して建てた「日本人女性」
カザンラク名誉市民の芸術家ドコ・ドコフ(Doko Dokov)が製作、大通りの真ん中に立っている。
実はドコ・ドコフ氏は日本へ行ったことがなく、思い入れだけで作ったらしい。資料を掻き集めて完璧に作ったが、友人のPeter Boyadjieffから「傘が違う」と指摘されて非常に残念がったとか(本人談)。
カザンラク郊外の湖
カザンラク郊外にある湖。静かな湖面の下にはトラキア人の都市が沈んでいるらしい。発掘プロジェクトもあって、日本人技師が「湖の真ん中だけ囲って水を抜こうぜ」と提案したらしいが、なにぶん実行するだけのお金がないらしい。新たな観光開発として成立すれば、ここも名所になるかも知れない。

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