ここまでお付き合いいただいた諸兄には、バルカン半島が世界に名だたるIT企業にとって、ヨーロッパ有数の開発拠点になっていることを十分ご理解いただけたと思います。マイクロソフト、ユービーアイソフト、シャオミ、SAP……特にブルガリアはEU加盟国、法人税10%、世界的な競技プログラミング教育の発祥地のひとつに挙げられるほど、もともとコンピュータ産業に強い国家であることも手伝って欧州有数のIT開発集積地となっています。
今回の記事では、ブルガリアのIT開発拠点であるソフィアのビジネスパークを見学し、後半ではpCloud社のブルガリア支社を訪問します。
全部通しで読むと、なぜpCloudがブルガリアに開発拠点を設けたのか、その辺の背景まで把握できますが、pCloudの部分だけ知りたいという方は記事の後半からどうぞ。
なぜブルガリアはIT大国となれたのか?
ブルガリアのライバルと言えばセルビアのイメージですが、両国の決定的な違いはEU加盟・非加盟です。
ブルガリアはEU域内の開発拠点、セルビアはEUと連結した開発拠点です。
マイクロソフトなどの海外企業にとってはちょっと違うのですが、ユービーアイソフトやSAPのような欧州立脚のIT企業にとってみると、ブルガリアは国内ならぬ域内拠点。日本に置き換えれば地方に工場や支店を作るのに感覚的に近いと思います。一方のセルビアは域外にあたるので、海外拠点的な……それこそベトナムや台湾に工場を設けるイメージに近いような気がします。
また、ブルガリアは共産主義時代から東側陣営のコンピュータ生産拠点でした。昔からIT系人材の育成に力を注いできた背景があります。教育制度も選抜型のシステムを採用しており、専門系の高校、大学、科学アカデミー、そして企業までが一貫していることで選抜された人材が高度な技術を持っていることも同国の大きな特徴と言えます。
それに法人税10%というのも驚きですよね。ざっくり日本企業における実効税率の1/3で済むんです。
これは他の国と比べても安いんです。ベトナムや台湾は20%、中国25%などと比較しても、10%は格安。
IT企業は物流をそれほど気にしなくて良いから、距離なんてそれほど関係ないし、日本にとってもう楽園みたいな場所だと思うんだけどなぁ……
ブルガリアは2026年から通貨をユーロに切り替えていますが、現地の人の話を聞くと体感的に2倍くらいに価格が跳ね上がったらしいです。例えばレストランで10レフの記載を、そのまま10ユーロに書き換えたりする店が多かったらしく、レフとユーロの為替格差から物価が2倍に跳ね上がった、というのが現地の人たちの印象らしいです。
さすがにみんなキツいキツいと言ってはいますが、それでもなんとかやれてしまう……法人税の安い分、給料は割と良い人が多いみたいで、特にIT系などは高給取りも多いことから、短期的な物価高騰で済む限りはなんとかやって行けている、という感じみたいです。
ソフィア・ビジネスパークに訪れてみた

ソフィア・ビジネスパークは、ブルガリアの首都ソフィアにあるビジネスエリアです。
2001年頃に開業し、中東欧最大のオフィスパークとして知られています。敷地内にはIT系企業だけでなく通信、エネルギー、金融、医療、その他の企業が多数入居していて、レストラン、カフェ、スーパー、薬局、銀行、医療施設、フィットネス、駐車場、イベントスペースなどが揃っています。単なるオフィス街ではなく、勤務時間中の用事をキャンパス内でほぼ完結できるというなかなかすごいエリアです。
日本にもこうしたビジネスパークはありますが(一例を挙げるなら幕張新都心など)、「外資系IT企業の開発・地域統括機能」「大型オフィスキャンパス」「商業・生活機能」がひとつに集積された有力なビジネスパークは現状近いものはあっても、ここまで整備されたものとなると残念ながら見当たりません。こうしたビジネスパークは海外IT企業の日本進出に必要な「オフィス、人材、行政、生活、企業間交流」を一カ所にまとめられるという点で非常に大きな意味を持ちます。ソフトウェア産業を国策として掲げるのであれば、こうした取り組みは必要不可欠だと思います。




pCloudもブルガリアに開発拠点
そしてまた、pCloudもバルカン半島に拠点を持つ企業のひとつです。
スイス本社と比べても人件費は安く、法人税も安く、人材も揃っているのだから、むしろ選ばない手はないでしょう。
気づいている方も多いと思いますが、pCloudはスイスが本社です。
スイスはEU加盟国ではありません。
同盟を結ぶことで自分たちの意思だけですべてを決定できなくなる、という思いが強いためだと聞いています。こういう国民全体の空気感というか、こだわりの強さが、pCloudにも “それらしさ” として表れていますよね。
ただ、スイスの人口は913万人。神奈川県の人口よりちょっと少ないくらいです。
だからスイスから起業する会社は、多くの場合、最初の段階からEU地域での展開を想定した起業を志します。
pCloudもGDPR完全対応を謳っていたり、スイスのイメージをブランド化した域外戦略を採ったりしているのは、まさにそういう事なんですね。
ちなみにスイス自体にもGDPRに匹敵すると言われる非常に厳しいプライバシー保護規定があったり、スイス国民のプライドとして外圧に屈しないという精神性も根強いため、そういった二重の影響力をpCloudは持ち合わせている点も考え抜かれています。
pCloud社は、ビジネスパークではなく、ソフィア空港に比較的近い新興エリアに建設された新しいビルに入居しています。



事前にpCloud社側にも打診してあったので、当日はCEOのTunio Zafer氏や共同創業者のAnton氏も駆けつけてくれて、色々と話し合いをしました。日本市場を取り巻く状況を説明し、現時点での販路説明、協議中の新しい取引に関する摺り合わせなどを数時間にわたって行いました。
その後、レストランに会場を移して、ブルガリア式食事会を開いていただきました。
ブルガリアでは、まず食前にラキヤ。
ラキヤとは日本の焼酎に相当するようなもので、ぶどうやカリンなど果実を材料とした蒸留酒。ウイスキー並みのアルコール度数40度が基本。このバルカン半島で広く作られている伝統的なお酒です。
このラキヤとサラダで食事開始。
ビール等、ラキヤ好き、ワインが良い人、みんなでサラダを食べていきます。
付け合わせ的に出てくるのが、キュウリやトマトのみじん切りが加えられたヨーグルト。さすがブルガリア。
若干の塩味というシンプルな味付けで、食べているとハマってくる味わいです。
インド料理に詳しい方なら、まんまライタです。ビリヤニの上にかけて食べたりする、アレです。
そもそもサラダやヨーグルトをアテにして高アルコールの蒸留酒を飲むというのは日本人からすると無茶苦茶な組み合わせなんですが、ラキヤのフルーツフレーバーが効いていて割と組み合わせとして悪くないです。

ブルガリア人は総じてお酒好きで、酒に強い人が多いです。僕もザルとか言われていますが、女性でも僕と同じくらい普通に飲むので、割と飲んでて楽しいです。遠慮なく飲み続けられます。
たっぷり2時間くらいワイワイ飲み続けて、ここから食事本番。ステーキやらハンバーグやらパテやら、多種多様な肉料理がガンガン登場します。もうすでにサラダでお腹いっぱいなんですが……
こういう食事会ではよくあるらしいのですが、レストランの店員は先に帰ってしまう。
後はご自由に。。
日付が変わるまで飲み食いして、やっと終わりしました。
日本だと宴会は2時間制が多いんですが、5時間6時間は当たり前なんだそうです。
それでも交渉はきっちりと。
別れ際に対日投資の合意まで行き着いてホッと一安心。
無事に目的を果たせて本当に良かったです。

これで、バルカン半島の視察は終了です。
ギリシアでは、フードデリバリーの完成形を体験しました。
ベオグラードでは、世界的なソフトウェア集積地の現在の姿を目撃しました。
カザンラクでは観光DXの未整備を確認し、首都ソフィアのビジネスパークには、IT産業を国家の成長力に変えようとするブルガリアの本気を見ました。
スイス企業でありながら、ソフィアに開発拠点を構えるpCloudもまた、このバルカンIT産業を象徴する企業のひとつです。
そして今回、その経営陣と直接顔を合わせ、日本市場の次の展開について合意できたことも大きな収穫でした。
長い旅でしたが、ここまで来た意味は十分にありました。
来年……は、ちょっと難しいかもしれませんが、また近いうちに再度ブルガリアを訪れて、今回見逃した場所にも行ってみたいと思いました。
またいつか、皆さんにご報告できる日が来ることを!
お疲れさまでした!



