目次
トラブルシューティングの体系化と再発防止マニュアル!
はじめに:事故は必ず起きるのだだだ(だから設計に組み込むのだだだ)

AI漫画制作において「トラブルは不可避」です。いくらプロンプトを綿密に設計しても、モデルを調整しても、AIはある日突然、ユダのように、もといヨーダのように裏切ってきます。
思いもよらぬ顔崩壊、背景の消失、服装のチェンジ、突然の性別変更など……。
まるで、思春期の子供のような不安定さ。
だからこそ、「事故が起きない前提」で制作フローを構築するのではなく、「確実に事故が起きる前提」で、トラブルシューティング(=発生時の対処)とリカバリ設計を「工程」として組み込んでおくことが、最も現実的で確実な解決策となるのです。
トラブルは大きく3種に分類される

まず重要なのは、「トラブルの種類ごとにアプローチを分けること」です。
雑に「崩れた!」「ミスった!」「笑った!」で片付けず、次の3分類で整理します。
| 種類 | 概要 | 例 |
| 生成崩壊系 | 画像自体が意図と著しく異なる | 髪が爆発、顔が溶ける、変なモザイク |
| プロンプト逸脱系 | 指示内容を守らず暴走 | 服が勝手に変化、背景が廃墟になる |
| 連続性断絶系 | 前後のつながりが消失 | コマごとに髪型・小物が変わる、性格が変わる |
この3つを明確に意識することで、「単なる再生成」ではなく、目的に合ったトラブル対処戦略が立てられるようになります。
生成崩壊系:最も厄介な「AIの気まぐれ」を封じる

最も多く、最も厄介な問題が生成崩壊系です。これは、AIが「指示は読んだ、でも破る。だが、それがいい。(よくない)」という状態で、いわばサイコパス型の崩壊です。
よくあるパターン
・顔のパーツがすべてズレる
・髪の毛がグチャッと絡む or 一部消失
・手が3本ある or 指が10000本ある
・帽子が空中に浮いてる
・ジーンズの股間が割れてる(地味に多い)
・頭にアルミホイルを被っている
対処法
・バージョンを変える(モデル or LoRA):根本原因がモデルにあることも。
・画像→画像生成に切り替える:崩れていない前コマを使って制御強化。
・強いポジティブ指定で構成リストを書き直す 例:「頭はひとつ、目は2つ、まつ毛あり、左右対称」
・画面要素を分割生成に切り替える:キャラ+背景を別々に生成し合成。
・Photoshopで「部分修正生成」を活用:生成塗りつぶし機能で「局所だけ」差し替える。
再発防止策
・テンプレートに「崩れて困る部位一覧」タグを明記しておく
・顔/手/髪型のリファレンス画像をAI側で常時参照させる
・同じキャラを違う角度から描くと崩れやすい→アングルごとに別プロンプトを用意
プロンプト逸脱系:命令無視の“暴走”への対処

プロンプト逸脱は、「ちゃんと書いてあるのに、なぜか守られない」ケースです。
生成AIにありがちな「うっかり」ではなく、明らかに逆の挙動をすることもあり、これはいわば「バグではなく仕様」として扱うべきです。
よくある暴走事例
・プロンプトに「黒板の前に立つ女の子」と書いたのに、背景が廃墟になったりする
・「制服」と指定したのに、なぜか私服
・ベレー帽を着けたはずが、ヘルメットに
・金髪が赤毛になる
暴走抑制策
・変わってほしくない部分には 「ネガティブ・プロンプト」を明記する(ChatGPTなら「〇〇にはしないで下さい」とか)例:「服は変化させずに必ず同じ服であること」「同じ背景であり、別の背景を描いてはいけない 」など
・要求が高すぎる指示をやめる
・「かわいい」「制服っぽい」など抽象語は避け、具体例の記載で制御する
・一度成功した生成を「ストック化」して呼び出す運用に切り替える(ChatGPTであれば「保存メモリに保存して強制適用・即時発火」の指示を出す)
補足
暴走系は、「AIの文脈理解の失敗」で起きることが多いため、「流れに合わせて文脈も毎回説明する」のがけっこう効きます。
連続性断絶系:シリーズ物で最も読者に嫌われる崩れ・乱れ

見た目には些細でも、シリーズ読み進めたときに突然「え?」となる断絶タイプの崩壊がこれ。
主なパターン
・同じキャラが次の話で急に違う顔に
・服の装飾パーツの位置や形が変わる
・背景の小物がなくなってる(映画ポスター、黒板の落書きなど)
・髪型が1話ごとに違う
・セリフと表情が合ってない(泣き顔で「うれしい」)
特効薬
・リファレンス画像のスナップショット運用
・第1話や1コマ目の決定版キャラ画像を生成ごとに添付
・章ごとに専用プロンプトテンプレートを使う
・キャラの状態・衣装・小物をその章専用で再定義する
・「キャラ設定の変化」をあえて物語に組み込む
・髪が濡れて変化 → コマ内で描写する
・制服→私服に変わる → 着替えシーンを入れる
再発防止策
・前後のコマ画像をAIに必ず添付して生成する
・背景や小物の「変化」を演出としてプロンプトに明記
・「変わるべきでないものリスト」をあらかじめ明文化
トラブル対応の“設計”という考え方
重要なのは、「トラブル対応は設計できる」ということです。
偶然ミスが起きて、それを個別に手で直していたら永遠に終わりません。
代わりに、以下のような“構造化した予防網”を張っておきます
| 工夫 | 目的 |
| 毎話・毎章ごとのキャラテンプレ | 連続性断絶の予防 |
| 三面図+表情集 | 崩壊リスクの低減 |
| 描画パーツの分離出力 | 生成崩壊の回避 |
| 成功パターンの保存+再利用 | プロンプト逸脱の抑止 |
| 問題が起きた際のスクショ記録 | 再発時に比較・学習可能 |
異常発生ログの蓄積と共有

トラブルは、「忘れたころにまた起きる」ものです。
私がやっているのは、「異常発生ログ」をメモ形式で残すこと。
たとえば
# 異常発生ログ No.014
記録日:2025/10/05
対象プロジェクト:AI漫画 第6章(夜景シーン)
【発生内容】
- キャラAの髪色が前コマからやや明度上昇(#b22e2e → #c03030)
- 背景の街灯が左→右に反転(照明方向の逆転)
- 光源補助設定("light: left-top 5500K")が無視されている疑い
【原因分析】
- 前コマ参照設定(reference_image)が無効化されていた
- 「表情差分プロンプト」に整合性スイッチ指定漏れ(previous_frame_consistency=off)
【対処手順】
1. 該当3コマ目のみ再生成(seed固定、reference_image再指定)
2. プロンプトへ次の文を追記:
- `髪色は前コマと同一トーン(#b22e2e)`
- `照明は左上5500K固定`
3. 再生成後、前コマとの比較スクリプトでΔE値(色差)を確認(許容範囲±3以内)
4. キャッシュファイル `tmp_frame03_*.png` を削除
【再発防止策】
- プロンプトテンプレート内に以下を追加:
これを溜めておけば、次の制作で同じミスを防げるだけでなく、チーム制作にも活かせます。
まとめ:トラブルは必ず起きる、だから最初から“入れておく”

トラブルシューティングとは、修正作業ではありません。
それはむしろ、「作品を壊さないための防衛ライン設計」であり、AI時代の「演出支援」のひとつです。
・ミスは起きる。前提として組み込め。
・分類して対処すれば怖くない。
・仕組みで予防し、記録で再発を防ぐ。
この考え方が身につけば、AI漫画制作は圧倒的に安定します。
そして読者は、あなたが「裏で何回も戦った」なんてことにはまったく気づかずに、ページをめくって笑ってくれます。
その笑顔が、人知れずトラブル対策を頑張った貴方に送られる、最高の報酬ではないでしょうか。



